こんにちは。
細川 侑也(@yuyan_mtg)です。
ラスベガスで行われたプロツアー『マジック:ザ・ギャザリング——FINAL FANTASY』!
日本のプロ、行弘 賢選手の赤単アグロさばきに感動し、そして優勝時の嬉し泣きには、見ている側ももらい泣きするなど、様々な感情をプレゼントしてくれたプロツアーサンデーでした。
今回は週末に千葉で行われるマジックスポットライトのフォーマットでもあるスタンダードの結果を、プロツアーから分析していきます!
プロツアー『マジック:ザ・ギャザリング——FINAL FANTASY』
優勝:赤単アグロ
2位:イゼット果敢
3位:赤単アグロ
4位:イゼット果敢
5位:イゼット果敢
6位:赤単アグロ
7位:イゼット果敢
8位:赤単アグロ
なんとトップ8には赤単アグロ4人、イゼット果敢4人!
アゾリウス全知やゴルガリ陰湿な根などの姿は一切なく、トップ8は2つのデッキタイプだけとなりました。
赤単アグロ
見事優勝を収めた行弘 賢選手の赤単アグロ。特徴的なのはメインから4枚採用されている《双つ口の嵐孵り》でしょうか。
前兆で使用することで飛行を持たないクリーチャーに5点のダメージを与えることができるドラゴン。《焙り焼き》を思い出す方もいるでしょう。
飛行に対して使用できないデメリットを除けば、2マナ5点火力となるので、非常に広い範囲のクリーチャーに対処できます。赤単が処理しづらい《ドレイクの孵卵者》や《迷える黒魔道士、ビビ》、ドメインの《ホーントウッドの大主》、《分派の説教者》に《黙示録、シェオルドレッド》などなど対象は様々です。
しかも前兆で唱えた後はライブラリーに戻ってくれるので、またドローできるチャンスもあります。
同型でもタフネス3以上のクリーチャーは処理しづらいため、相手がフルタップの隙に《心火の英雄》に《巨怪の怒り》を唱えて3/3にしておくのが定番のプレイでしたが、《双つ口の嵐孵り》の前では無力です。
他のトップ8のデッキリストを見ていると《魔女跡追いの激情》がよく採用されています。こちらも5点を与えるカードですが、攻撃クリーチャーの数だけマナが下がるカードなので使いにくいことも多く、より安定して役割を果たせるのは《双つ口の嵐孵り》だと思われます。
この部分は行弘選手のリストの大きなポイントです。今後は《双つ口の嵐孵り》がメインに4枚採用されるのが当たり前となるでしょう。
全赤単に共通しているのは、メインから《魔道士封じのトカゲ》が入っている点でしょう。
今大会ではイゼット果敢の使用率は40%を超えており、《魔道士封じのトカゲ》メインが当たり前になったのも頷けます。これまで五分程度だった相性は、《魔道士封じのトカゲ》のメイン投入で完全に赤単側に傾きました。
トップ8のブラケットが赤単4人とイゼット果敢が綺麗に分かれたため、決勝で初めて赤単とイゼット果敢が相対することとなったのですが、もしイゼット果敢と赤単が準々決勝からマッチングしているトーナメント表だった場合、上位は赤単が総なめしていたかもしれません。
イゼット果敢の人気は相変わらずでしょうが、赤単はイゼット果敢を倒す力を持っています。しかも他のマッチにおいても有利な相手が多く、赤単は非常に今強いデッキです。
本来赤単がきついはずだったミッドレンジたちが、イゼット果敢の使う《コーリ鋼の短刀》に駆逐されてしまっていることが、赤単の立ち位置を良くしているのでしょう。
今週末も赤単はベストデッキです!
イゼット果敢
そんな赤単に負けてしまったものの、メタゲームに40%超えと圧倒的な使用率にしてトップ8に4人を送り込んだデッキ、イゼット果敢。
《迷える黒魔道士、ビビ》によって強化されたと言われたり、ビビ不要論も飛び出すなど、ベストなリストはどんなものになるのか多くのプレイヤーが注目していましたが、今回の結果を見て明らかなことは1つあるでしょう。
ビビはやはりイゼット果敢に必要だったのです。
2位:4枚
4位:3枚
5位:2枚
7位:2枚
と少なくとも2枚のビビをすべてのイゼット果敢が採用しており、イアン・ロブ選手はメインに4枚採用し、デッキの軸としています。
イゼット果敢はビビを採用したことで白系デッキへの耐性、とりわけ《一時的封鎖》に対して非常に強くなりました。
《巻物変容》で《一時的封鎖》を使い回す動きをしてくるアゾリウス全知にはこれまで苦しめられていましたが、ビビの登場により《一時的封鎖》は以前より強力ではありません。《コーリ鋼の短刀》《嵐追いの才能》を止めても勝てないデッキになったのです。
また、ビビを投入することでイゼット果敢は果敢ビートダウンの一面だけでなく、コンボデッキにもなってくれます。生半可なライフゲインではビビの前では無力です。総じてイゼット果敢のデッキパワー向上の役割を果たしたのです。
《迷える黒魔道士、ビビ》以外のカードはというと、それぞれのプレイヤーは異なるカード選択をしています。《ドレイクの孵卵者》のみから、《僧院の速槍》《迷える黒魔道士、ビビ》のコンビ、更にはビビオンリーのリストも。
《僧院の速槍》を入れれば速度が上がりますし、《ドレイクの孵卵者》はミラーマッチを見据えた選択肢。ビビだけのリストには新たな装備品の《「占星術師」の天球儀》が入っており、こちらも強力。
2ターン目に置いてターンが帰ってくれば、あっという間に5/5にサイズアップしますし、ビビにつければ、呪文を唱えるたびに《「占星術師」の天球儀》とビビ自身の能力でカウンターが2つ乗るので、ビビ自体のバリューがアップします。ビビとセットで採用することになるでしょうが、爆発力はかなりのものでしょう。装備コストが軽いのも強いですね。
イゼット果敢はこれまで勝っているリストも多種多様でした。プロツアーである程度リストが固まると思われたのですが、採用カードはそれぞれバラバラです。流行している最強のデッキのリストがここまで固まっていないのは非常に珍しいですね。
その理由はひとえに《嵐追いの才能》《コーリ鋼の短刀》《食糧補充》のベースラインが強すぎることにあると思われます。これらのカード、そして果敢を引き起こすキャントリップと除去。ここが強すぎてクリーチャーの細かい採択がゲームに影響しないことも多いのです。
とはいえ、前述の通りビビはトップ8のすべてのデッキリストが採用しており、イゼット果敢に必要であることはほぼ確定したと言って良いかもしれません。
《ドレイクの孵卵者》も主にミラーマッチで強く、《巨怪の怒り》によるお手軽ドレイク生成コンボがあり、イゼット果敢がこれだけ多い状況なら3枚以上採用したいカードでしょう。
ただ、それはあくまで今週末のメタが今のままであるなら、です。
イゼット果敢と赤単の使用率はプロツアーとスポットライト千葉で変わると思っています。イゼット果敢が減り、赤単が増え、もしかすると同じぐらいになるかもしれません。それぐらい赤単はイゼット果敢に強いことがプロツアーで証明されましたからね。
そしてスポットライト千葉がオープンイベントであることも特筆すべき点です。誰でも参加することができ、参加者は1000人を超えます。プロツアーのように偏ったメタゲームになることはありません。イゼット果敢、あるいは赤単が40%になることは決してないでしょう。
それならばデッキリストにもいわゆるマイルドさが求められてくるかもしれません。《ドレイクの孵卵者》があまり効かないアゾリウス全知をはじめ、コントロールデッキへの意識を高める必要もありそうです。
そうなると再び採用されるのが《精鋭射手団の目立ちたがり》です。《ドレイクの孵卵者》と《精鋭射手団の目立ちたがり》をスプリットするリストなどは、こういった参加者の多いオープンイベントの大会で向いています。
イゼット果敢のリストを作るだけで無限に悩めてしまいますね!どんなリストが週末に勝ち上がってくるのか楽しみです。
アゾリウス全知
トップ8からは漏れてしまったものの、スタンダードラウンドを9勝1敗の成績で終えたのがハビエル・ドミンゲス選手のアゾリウス全知。
これまでのアゾリウス全知と比べてかなりリストが洗練されており、全知の完成形と言って差し支えないでしょう。
クリーチャー枠にはフィニッシャーにもなる《マラング川の執政》に加えて《フラッドピットの大主》が4枚採用されています。カードを2枚捨てて1枚捨てる能力は《全知》を捨てつつ《アブエロの覚醒》を探すのに便利ですが、3マナの重さが気になる点から、これまでは《決定的瞬間》などが優先して採用されていました。
しかし、《一時的封鎖》との相性の良さから《巻物変容》を複数枚採用するようになったことで、その《巻物変容》の対象としても選べる《フラッドピットの大主》が4枚採用されるようになったのでしょう。
《巻物変容》の強さには目を見張るものがあります。《一時的封鎖》は対イゼット果敢において完璧なカードですが、唯一の欠点は《洪水の大口へ》で手札に戻されてしまうことでした。
それを解決してくれるのが《巻物変容》です。バウンスされそうな《一時的封鎖》を《巻物変容》でちらつかせれば、《洪水の大口へ》を無効にできるのです。もちろん相手が《一時的封鎖》後に再展開してきたところに《巻物変容》を打って更に追放するのも良いでしょう。
インスタントの干渉手段が多く用意されているのも特徴的です。《エファラの分散》4枚程度にとどめるリストが多い中、《魂の仕切り》に、《喝破》《呪文貫き》と打ち消しも多めに採用しています。
《魂の仕切り》は《迷える黒魔道士、ビビ》に対処できる貴重なカードですね。全知相手に2マナ多くビビを唱えるのは死を意味するので、実質ただの確定除去なのです。
フィニッシャーにも言及しておきましょう。全知のフィニッシュ手段と言えば様々なものがありますが、このリストは《不穏な変換》になっています。
2マナの瞬速エンチャントで、そのプレイヤーの墓地の分だけクリーチャーのパワーを下げる、疑似的な除去となるエンチャント。戦場に出た時に各プレイヤーが切削を行うので、これが勝ち手段になります。
《全知》を出して《マラング川の執政》2枚と《乱動するドラゴンの嵐》が揃うと、このデッキは無限ドローになります。《乱動するドラゴンの嵐》を出す→《マラング川の執政》Aを出して《乱動するドラゴンの嵐》を戻して出し直す。《マラング川の執政》Bを出して《マラング川の執政》Aを戻すと無限無限にライブラリーを掘り進められます。
最終的に《不穏な変換》に辿り着いたら、《マラング川の執政》で《不穏な変換》を戻し続ければ相手のライブラリーは0になり、ターンを返せば勝ちというわけです。
フィニッシャー枠として、《アルケヴィオスへの侵攻》から始まり、《第三の道の創設》など段々コンボ以外での使い道があるカードが発見されてきたアゾリウス全知。ついには無限コンボ不採用のリストまで出始めましたが、今回の《不穏な変換》はかなり使いやすくてオススメです。よくこんなカードを見つけてきましたね…!
序盤に引いても除去として機能しますし、ビビのパワーを下げてマナを出させないなんてことも可能です。
《フラッドピットの大主》の採用でコントロールプランもより強固ものとなり、いよいよスタンダード三強の一角となりました。
イゼット果敢と赤単だけを意識すればよいわけではないのがマジックの難しいところですね!
週末は墓地対策もお忘れなく!